音楽の話 #Summer Time

音楽の話 #Summer Time

Summer Time (1935) ジョージ・ガーシュイン

 ガーシュインと聞いてまず思い出す曲は何でしょうか?「ラプソディ・イン・ブルー」なんかが有名どころですね。ディズニーの音楽系アニメーション映画『ファンタジア2000』やドラマ『のだめカンタービレ』などで使われていましたし、普段の生活の中でも耳にする機会が多い曲です。ジーン・ケリー主演のミュージカル映画『巴里のアメリカ人』は全篇でガーシュインの音楽が楽しめますし、ブロードウェイ・ミュージカル『クレイジー・フォー・ユー』の「アイ・ガット・リズム」は何度見ても本当に楽しいタップダンスですね。
 今回ご紹介するのは、ガーシュインがオペラ『ポーギーとベス』の為に書いた「サマータイム」という曲です。南北戦争、奴隷解放宣言を経て、大きく国が動いていた1920年代のアメリカを舞台に日々の生活にも苦労する黒人たち(アフリカ系アメリカ人)を描いた作品で、ガーシュイン自身は”アメリカのフォークオペラ”と呼んでいました。元々ジャズは得意としていたガーシュインでしたが、このオペラを作るにあたり舞台となるチャールストンと近郊のフォーリー島に通い改めて黒人音楽を研究したそうです。日本人のマスターには、この人種差別や奴隷制度などは理解に苦しむ世界なのですが、世の中には未だに根強い差別感情を持つ人々は確実に存在して、また近年では増加の傾向にあるようですね。悲しいことです。
 「サマータイム」はオペラの中では子守唄として歌われます。なんてブルージーな子守唄なんでしょう!気怠いメロディーに、「夏になれば作物が採れて少しは暮らしが楽なにるわ…父さんは金持ちだし母さんは綺麗よ…」と、希望を込められた歌詞が乗せられています。歌詞を変えながら各幕ごとに何度か歌われる、オペラのキーとなる歌曲です。その後ジャズシンガー:レディ・デイことビリー・ホリデイがカバーしたことをきっかけに、より多くに知られる曲となり、60年にはジャズサックス奏者のジョン・コルトレーンがカバーし、ジャズのスタンダードとして確立されました。またポピュラー音楽のジャンルでも69年にロック歌手のジャニス・ジョプリンがブルース・ロックアレンジでカバーしたものが有名です。パンチの効いたジャニスの迫力ある声で歌われる「サマータイム」は、一度は聞いてみてほしいです。しびれますよ!

75be2434_Fotor

 ユダヤ系ロシア人の移民の子としてN.Y.で生まれ、幼い頃から街に溢れていたラグタイム音楽に親しんできたガーシュインは、楽器との出会いは遅かったものの身近にあったジャズや黒人音楽を吸収し、独学でクラシックも学びました。本当は当時クラシック界で活躍していたストラヴィンスキーやモーリス・ラヴェルに師事したいと願ったのですが、すでにプロの作曲家として自身の音楽を確立していたガーシュインだったため、その才能を邪魔するのは良くないと断られてしまいました。ラヴェルには、あなたは既に一流のガーシュウィンなのだから二流のラヴェルになる必要はないでしょう…とまで言われたとか!ガーシュインは脳腫瘍が原因で38歳の若さで永眠するのですが、倒れる直前まで仕事に没頭し、最期まで新しい挑戦(特殊な調整を扱うクラシック音楽の十二音技法など)を続けていたのです。ハリウッドにも進出し映画業にも踏み出そうとした矢先のことだったので、もう少し長生きできていたら映画音楽の作曲家としても名を馳せていたでしょうね。
 現在、ガーシュイン作曲「サマータイム」は、ジャズ、ブルース、ロック、またクラシックでも、多くのジャンルで様々なアレンジを聴くことができます。マスターのお気に入りは、エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングがデュエットで歌ったヴァージョンです。聴いたら元気になれる曲…ってわけではないですが、情感たっぷりに歌うエラの歌声と、温かみのあるだみ声のサッチモヴォイスは、胸の奥深くにグッと来るものがあります。

NO MUSIC, NO LIFE.

美味しいコーヒーと一緒に、音楽を楽しみましょう