音楽の話 #明日に架ける橋

音楽の話 #明日に架ける橋

明日に架ける橋

(1970)

サイモン&ガーファンクル

 この曲をセレクトしたのは、もちろん反戦の意味です。平和への祈りを込めてご紹介します。といっても元々この曲自体は反戦歌ではありませんでした。苦境に立たされた友人を見守り、その支えになり常に味方にでいよう…という励ましソング。だがしかしこの曲が発表された頃のアメリカは、国中がベトナム戦争への介入を疑問視し始め、反戦ムードが高まりまくっていました。激しいシャウトで人気を博したR&Bシンガーのエドウィン・スターが歌う「黒い戦争」のように、戦争をして何かいいことがあるのか? 何ひとつないじゃないか!と、戦争そのものを辛辣に批判する直接的な怒りの反戦歌がヒットした一方、「明日に架ける橋」やマーヴィン・ゲイの「What’s Going On」などのように傷ついたものに寄り添い優しく救いの手を差し伸べるメッセージソングが戦争というものに疲弊していたアメリカ国民の”心の拠り所”になったのです。得てしてサイモン&ガーファンクルのこの曲は、アメリカ公民権運動で盛んに歌われた黒人霊歌「Mary Don’t You Weep」に影響を受けたこともあり、人々の気持ちを揺さぶりストレートに感情を掻き立てたのでした。

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 サイモン&ガーファンクルはニューヨーク出身のフォーク及びフォークロックデュオで、二人は小学校からの親友同士でした。学生時代から二人で音楽活動はしていましたが、本格的なデビューは大学を卒業してから。幅広い音楽性を持つギタリストのポールと、天使の歌声と評されるアートは、共にローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のギタリスト/シンガーに選ばれ、グループとしてはロックの殿堂入りも果たしています。しかしながら、音楽に対する意見の違いが日に日に大きくなり、ちょうど「明日に架ける橋」を制作中に爆発が起き、この曲を最後に二人で活動を続けるのは困難なものとなりました。解散後は別々にソロ活動を続け、それぞれのファンを魅了しています。和解もしたようですが、今でも仲は良くないそうです。子供の頃は親友だったのにね。

 「明日に架ける橋」はサイモン&ガーファンクルのシングルリスト「サウンド・オブ・サイレンス」「冬の散歩道」「スカボロー・フェア」「コンドルは飛んでいく」などの中では比較的マイナーな歌かもしれません。しかし当時から現在に至るまで、ジャクソン5、B.J.トーマス、スティービー・ワンダー、ペギー・リー、クインシー・ジョーンズ、ナナ・ムスクーリ、ザ・ベンチャーズ、アレサ・フランクリン、日本では森山良子、アリス、上田正樹、アルフィー、サーカスなど、名だたるミュージシャンにカヴァーされてきました。中でもエルヴィス・プレスリーのヴァージョンは、作詞作曲を担当したポールが”この歌はこう歌われるべきである”と絶賛するほどのお気に入りだったそうです。ある世代に限定すれば、花の高三トリオ(中三トリオの名前が有名ですね!)の最初で最後のジョイントコンサート『昌子・淳子・百恵 涙の卒業式〜出発〜』で歌われたラストソングとして耳に馴染んでいるファンも多いのではないでしょうか。あ、誰のファンでしたか?やっぱり百恵ちゃん派?!毎週テレビの前でザ・ベストテンや夜のヒットスタジオに子供達が釘付けになっていた良き時代、つい一昔前の日本にはどこの家庭にもあったのですね。

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 オリジナルヴァージョンはもちろんのこと、数々のカヴァーも素晴らしいですが、僕のお気に入りは日本を代表するシンガーの尾崎紀世彦さんがダイナミックな歌唱力で歌い上げるヴァージョンです。聴き応えがありますし、そしてダイレクトに胸に突き刺さる強さがあります。

 最後に、生涯「子どもの幸せと平和」を願い続けた画家で絵本作家のいわさきちひろさんの言葉を添えて、反戦の祈りをお伝えします。
――平和で、豊かで、美しく、可愛いものがほんとうに好きで、そういうものをこわしていこうとする力に限りない憤りを感じます。大人というものは、どんなに苦労が多くても、自分の方から、人を愛していける人間に、なることなんだと思います。

NO MUSIC, NO LIFE.

美味しいコーヒーと一緒に、音楽を楽しみましょう