音楽の話 #So in Love #キス・ミー・ケイト

音楽の話 #So in Love #キス・ミー・ケイト

So in Love (1948) コール・ポーター

 あなたにとって「映画」とはどういう存在でしょうか。子供の頃のマスターにとって映画は、週末(金・土・日曜)の21時から放送されるテレビのロードショーでした。といっても、マスターの家では21時以降はテレビを観ない決まりがあったので、兄が録画してくれるビデオを翌日に家族で観る…というのが恒例でした。当時はそれぞれの番組に解説者がついていて、金曜ロードショーはコロンとした顔立ちで「いや~映画ってほんとにいいもんですね」の水野晴郎さん、ゴールデン洋画劇場(土曜)は柔らかい口調で温かい解説をしてくれる高島忠夫さん、日曜洋画劇場はちょっとせっかちな口調で詳しすぎる解説から映画愛が溢れ出す「サヨナラサヨナラサヨナラ」の淀川長治さん。90年代前半あたりまでは放送される映画も幅広いジャンルからセレクトされていて、邦画あり洋画ありアニメあり、アクションもの恋愛もの推理ものサスペンスにホラーと、子供も喜ぶ作品から子供にはちょっと難しいぞ…といったものまでありました。大人向けの映画も、わからないなりに頭を捻りながら観ていましたね。毎週いろんな世界に連れて行ってくれるテレビの映画、お気に入りの作品はビデオテープが擦り切れるまで繰り返し楽しんだものです。あの頃は解説を聞いて映画へのワクワク感や期待感を膨らましていましたが、今では懐かしい映画を観ると当時の解説やオープニング、エンディングの音楽を思い出して胸がキュンと致します。

 今回ご紹介する曲「So in Love」は、アメリカの作曲家コール・ポーターのブロードウェイコメディミュージカル『キス・ミー・ケイト』で歌われるミュージカルナンバーです。コールのナンバーの多くがそうであるように、この曲もまたジャズのスタンダードとなり、多くのアーティストによって演奏されています。ジャズに分類されますが、そのメロディはまるでオペラのアリアのような荘厳さを感じさせます。実はこの曲、日曜洋画劇場のエンディングテーマとして長年お茶の間に親しまれていました。モートン・グールド楽団によるピアノ協奏曲風のアレンジがめちゃめちゃカッコよくて且つ完成されていたので、元々のクラシック音楽だと思われた方も多いようです。クラシックピアニストの中村紘子さんも「ラフマニノフのピアノコンチェルトと勘違いしていた」と語っています。

kissmekate

 『キス・ミー・ケイト』は1948年に初演が行われた作品で、演劇界で最も権威のある”トニー賞”(映画でいうところのアカデミー賞)を受賞しています。その人気と作品の高い評価は今でも続いていて、近年でもブロードウェイではリバイバル上演がされています。また、日本でも1966年の日本人キャストでの初演(宝田明&江利チエミコンビ)を皮切りに、立川光貴&倍賞千恵子コンビや宝塚公演として大浦みずき&ひびき美都コンビが上演を行ってきました。ここ最近では一路真輝を中心としたチームに松平健や川崎麻世、太川陽介などが加わり、全国の劇場を沸かせました。

 シェイクスピアの喜劇「じゃじゃ馬ならし」をベースに、男女関係のドタバタを描いたコメディミュージカル。元夫婦(人気の舞台俳優と女優)と新しい恋人(新人女優)が「じゃじゃ馬ならし」の舞台で共演するのですが、恋人に送ったラブレターが間違って元奥さんに渡ってしまったり、公演中に借金取りのギャングが乱入してきたり、いろいろブチ切れた元奥さんが舞台からバックレたり…と、最初から最後までこれでもかと大騒ぎ!そんな楽しいミュージカルです。ミュージカルの中で「So in Love」は元奥さん(名前はリリー)によって歌われます。間違ってラブレターを受け取り元夫からの愛のメッセージだと勘違いしたリリーは、…私を傷つけて捨てようとも、私は死ぬまであなたのものよ…こんなにも、こんなにも、私はとても深く、あなたを愛している…と、恋心に火が灯っちゃうんですね~。それものちに間違いがばれて紆余曲折しっちゃかめっちゃかなりますが、物語のラストは勿論ハッピーエンドです!

 映画版は1953年にハワード・キール&キャスリン・グレイソン主演で撮影され(MGM映画)、34年の時を経て1987年に日本でも公開されました。ミュージカル版とは少し設定やストーリーが違いますが、こちらもまた傑作。DVDも発売されていますので、その完成されたダンスと歌と笑いを、時代を経た現在でも気軽に楽しむことが出来ます。

 おすすめ:コール・ポーターの伝記映画「De-Lovely」の中で、ベルギーの歌姫ララ・ファビアンとギリシャのテノール歌手マリオ・フラングーリスがデュオで歌っています。シンプルなアレンジですが、二人の美しい声とセンチメンタルな響きが心に直球ズドン!

マスターのお気に入りです。

 

NO MUSIC, NO LIFE.

美味しいコーヒーと一緒に、音楽を楽しみましょう