音楽の話 #Anything Goes

音楽の話 #Anything Goes

Anything Goes (1934) コール・ポーター

 JAZZを愛する人にとってコール・ポーターはちょっと特別な存在ではないでしょうか。1891年にアメリカインディアナの良家に生まれ、幼い頃から音楽を学び、イェール大学~ハーバードに進んだ後は、音楽家として上流階級の社交界で活躍します。ミュージシャンにも様々な生い立ちの人がいますが、彼はやはり恵まれた境遇…わかりやすく言っちゃうと”イイトコのボンボン”だったのですね。そして彼は同性愛者でした。彼の才能に惚れ、人として音楽家として彼を愛した女性リンダと結婚し、生涯連れ添うことになりますが、コールはやはり結婚後も変わらずに男性を求め続けたようです。しかしリンダとの子供も望み、妊娠まで至ったのですが、残念なことに流産してしまいました。男を愛する自分、妻を愛する自分、どれも偽りではなく全てが私らしい…と彼は言います。ありのままでいることの苦悩を抱えながら、彼は音楽を作り続けたのです。

 彼がやっと世に認められ始めた40代の頃に作られたAnything Goesは、ブロードウェイミュージカル「エニシング・ゴーズ」の為に書かれました。アメリカからロンドンに向かう豪華客船を舞台にキャラの濃い乗客たちがドタバタでハチャメチャな騒動の中、コールのジャズナンバーとダンスで魅せるコメディミュージカル。一番の見せ場であるタップダンスシーンで、この曲は歌われます。初演から80年を経た今でも人気の高い作品で、マスターなんかはやはりサットン・フォスターの主人公リノ役がイメージ強いですね。ミュージカル好きの先輩方の中には、大地真央さん主演の日本公演を楽しまれた方も多いのではないでしょうか。またこのミュージカルにはAnything Goes以外にもコールの代表曲が山のように含まれています。All Through the Night、You’d Be So Easy to Love、You’re the Top、It’s De-Lovely、Let’s Misbehave、Blow, Gabriel, Blowなどなど。今ではみーんなJAZZのスタンダードになってますね。

 Anything Goes(何でもあり!)は、他の女性に恋をしてるビリーに片思い中のリノが「世の中なんでもありだから、彼が私を好きになるのだって不思議な事じゃない」って歌っております…ちょっと強気ですよね。ザッと歌詞を要約して紹介しますと…「ちらりとストッキングが見えただけで、昔の人たちには不謹慎極まりないこと。今は神もご存知、何でもありの世の中。昔の小説家は小粋な言葉を巧みに使う。なのに今は陳腐な常套句を並べるだけ。ほんとまったく、何でもありなのよね。今時の世の中、ますます狂ってきてる。良いことは悪い、黒いは白い、昼は夜。モテてるのは軽薄な見かけ倒しばかり。だから、私が恋の相手として相応しくなくても、あなたには私に応える義務があるわけ。世の中何でもありとおっしゃるならね」。21世紀の今となっては、逆にこの頃の方が自由で人々に寛容であったのかもしれません。便利になった分、失ったものも多く、人によってはどんどん生きにくい世界なっていることでしょうね。

Anything Goes

 各ミュージカル公演で、歌う女優さんや編曲によってそれぞれの良さがあるのですが、実はミュージカル通じゃない一般の皆様は別のところで耳に覚えがあるかもしれません。1984年ハリソン・フォード主演/スピルバーグ監督作品「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」のオープニングシーンで歌手ウィリー役のケイト・キャプショー(後のスピルバーグ夫人/なんと子供は前夫との子を含め6人!)が怪しい雰囲気を醸し出しながら中国語で歌っています。このマンダリンバージョンは古き良きミュージカル作品、またハリウッド映画へのスピルバーグ風オマージュと云われています。この映画、すっごい好きでしたね~「冒険」ってワクワクしちゃいますから!「グーニーズ」とか「E.T.」とか、いい映画が多かったです。スピルバーグじゃないし最近はめっきりアクション物も観なくなったけど、子供の頃はジャッキーチェンも好きでした(マスターはブルース・リーの一つ下の世代です)。ザ・香港映画って感じで安心感がありましたし、ジャッキーの超人的なアクションにも魅せられました。同じ人間なのだから、ジャッキーにできて僕にできないはずはない…と夢を見、幾度となく人間の限界を痛感(体感?)したものです。

 世界恐慌の影響がまだ続いていた1934年、とにかく明るく楽しいミュージカルにアメリカ人は一時的な逃避や憂さ晴らしを求めました。いつの時代も人の心は同じです。Anything Goesはミュージカルのサウンドトラック版で聴くのもオススメですし、JAZZナンバーとしてはサックスプレイヤーのStan GetzとGerry Mulliganのバージョンがカッコイイです!

NO MUSIC, NO LIFE.

美味しいコーヒーと一緒に、音楽を楽しみましょう